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20話 予期せぬお泊まり会と、夜の出来事

Auteur: みみっく
last update Date de publication: 2025-10-06 06:00:08

「また行きたいな、あのカフェ」

 悠真が、何気なく言うと、ひよりの声が、少しだけ真剣なトーンになった。

「うん! 私も! それでね、悠真くん」

 ひよりは、一度言葉を切ると、小さく息を吸い込む音がした。まるで、何かを決意したかのように。

「あのね……その、また、二人で……一緒に、どこか行きたいな、って……」

 ひよりの声は、少しずつ小さくなり、最後はほとんど囁き声のようになった。だが、その言葉には、今日のデートの終わりに彼女が見せた、あの小さな勇気が宿っていた。

「今度は、どこ行こうか?」

 ひよりが、少しだけ声を弾ませて、尋ねてきた。その言葉を聞いた瞬間、悠真の心臓は、耳元で雷鳴のように轟いた。

(え!? 今度!? また二人で……デートじゃん!)

 悠真の胸には、喜びが爆発したかのように広がった。ひよりからの、確かな誘い。断る理由など、どこにもない。いや、むしろ、彼が最も望んでいたことだ。電話の向こうで、ひよりが彼の返事を、息を潜めて待っているのが分かった。

「っ、うん! 行こう! どこでも行こう! ひよりが行きたいところ、どこでも付き合うよ!」

 悠真は、喜びのあまり、思わず大声になってしまった。彼の声が電話の向こうに届いた途端、ひよりが「やったー!」と、本当に嬉しそうに声を上げた。その無邪気な喜びの声が、悠真の心を満たしていく。

「ふふ、じゃあ、今度のお店、私が見つけておくね! また電話するから!」

「ああ! 楽しみにしてる!」

 電話を切った後も、悠真はしばらくの間、スマートフォンを握りしめたまま、その場に呆然と寝転がっていた。ひよりが、自分から次のデートに誘ってくれた。その事実が、悠真の全身を幸福感で満たし、この夏の夜を、忘れられないものに変えていった。

♢夏の夜、予感の始まり

 うだるような夏休みが始まった。両親から久しぶりの長期休暇で旅行に行かないかと誘われた悠真は、一瞬迷ったものの、すぐに断りの言葉を口にした。

「ごめん、ちょっと予定があるから」

 友人たちと過ごす時間が、今は何よりも大切に思えたのだ。両親は少し残念そうだったが、すぐに理解を示してくれた。

 両親が旅行に出かけたその夜、悠真の家では、ひより、まどか、そして煌を交えたささやかなお泊まり会が開催されることになった。広々としたリビングには、普段は静かな悠真の家に似合わない賑やかな笑い声が響き渡る。まどかが持ち寄ったお菓子を広げ、ひよりが楽しそうにイラストの話をする。煌は得意のトークで場を盛り上げ、悠真はそんな友人たちの姿を、どこか温かい気持ちで見つめていた。

 日付が変わる頃、煌が「とっておきのものがあるんだぜ」とニヤリと笑い、こっそり買ってきたという数本の瓶を取り出した。それは、煌がどこからか手に入れたらしい、見るからに怪しげな酒だった。

「え、これ……お酒?」

 ひよりが戸惑ったように呟き、まどかも眉をひそめる。悠真もさすがに引いたが、煌は涼しい顔で「大丈夫だって!カクテルみたいに飲みやすくしてやるからさ」と、冷蔵庫からジュースを取り出し、手際よく混ぜ始めた。

 その際、煌はひよりにだけ、他の誰よりも甘い視線を送り、グラスを差し出した。グラスからは甘い果実の香りが立ち上る。好奇心に抗えず、一口、また一口と、皆がその甘い誘惑に身を委ねていった。

 夜が更け、アルコールの酔いがじんわりと身体を巡り始める。煌はソファにぐったりと凭れかかり、まどかはテーブルに突っ伏して寝息を立てていた。悠真もまた、微かな倦怠感に包まれながら、ぼんやりと天井を見上げていた。

 煌は酔い潰れた仲間たちをちらりと見やると、その表情に微かな満足の色を浮かべた。

 その中で、ひよりだけが、まだ意識を保っているようだった。彼女がふわりと身を起こし、潤んだ瞳で悠真を見つめた。

「悠真くん……私、ベッドで寝たいな。悠真くんの匂いがする場所で眠りたいの」

 その言葉に、悠真の心臓が小さく跳ねる。ひよりの無邪気な言葉は、彼にとって何よりの甘美な響きだった。

「あ……俺のベッドで良ければ」

 そう言うと、ひよりはパッと顔を輝かせ、嬉しそうに微笑んだ。その無垢な笑顔に、悠真の胸は締め付けられるような甘い痛みを感じた。

 悠真はひよりを自分の部屋へと案内した。清潔に整えられた部屋の奥に置かれたベッドに、ひよりはそっと身を横たえる。ふわりと広がる栗色の髪が、枕に吸い込まれていく。

「悠真くん……そばで寝てくれる?」

 ひよりの声は、アルコールのせいか、いつもよりも甘く、そしてどこか幼い響きを帯びていた。潤んだ瞳が、不安げに悠真を見つめる。その仕草に、悠真の胸はきゅんと締め付けられた。悠真は一瞬戸惑ったが、ひよりの純粋な眼差しに、邪な感情を抱くことなどできなかった。

「うん、わかった」

 悠真はそう答えると、部屋の隅にあった一人掛けのソファに身体を沈めた。ひよりの規則正しい寝息が聞こえ始める頃、悠真もまた、微睡みの中に落ちていった。

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